ホロライブを見守る影の人々。24時間365日、全てを監視し続けるモデレーターの思い

ホロライブプロダクションが大事にしている価値、タレントとファンの関係性に欠かせないもの。それがコミュニティと、ファンからのコメント・発信です。

配信やタレントのSNSに届くコメントの多くは、タレントが活動を続ける糧になるものです。しかし中には、受け手を傷つけてしまうものや、プライバシーを脅かすような発信も存在します。


「炎上したっけ?」「中の人が気になる!」「前世はもしかして」……。

こうしたネット上の発信をチェックし、コミュニティの安全を陰で支えているのが、モデレーションチームです。

カバーのモデレーションチームは100%自社で組成したモデレーター組織によって24時間365日体制で監視を行なっています。YouTube、Twitchなどの動画・配信プラットフォームで行われる全ての配信のコメントチェックから、SNS、大規模掲示板での誹謗中傷対策までの広範囲に亘る業務を担当しています。展開地域に合わせて、日本語/英語/インドネシア語を筆頭にした多言語に対応しているのも大きな特徴です。

所属タレント70名以上、配信もコメントも多言語で発信される環境の中でこうした体制を整備するまでに、どのような経緯があったのでしょうか。モデレーションチームを監督する法務知財・危機管理本部のOさんとWさんに、チームの変遷やカバーならではの強み、業務への思いを聞きました。

配信数と共に成長したモデレーション体制

――プロダクションにとって欠かせない存在となったモデレーションチーム。会社としてのモデレーション業務は、いつ頃から行われているのでしょうか。

ホロライブプロダクションのタレントさんが配信活動を始めたのは2017年。これに対してモデレーターを配置し配信を確認する体制を本格的に構築し始めたのは2020年です。当時はまだモデレーション業務というものも世に知られておらず、人を募集するのも大変だったと聞きました。私が入社した2022年の時点では、まだ国内の配信を10時から26時までという限定的時間で、ホロライブENやIDのタレントさんの配信に関しては外部の委託会社にモデレーションをお願いしている状況でした。入社時に受け取ったミッションは、「まず24時間監視を」ということでしたね。

――フルタイムでモデレーションできる体制は、やはり重要なのでしょうか。

タレントさんの生配信は様々な時間帯に及ぶので、どんな時間でも安心して配信いただけ、ユーザーさんにもコメントいただけるのは重要な点です。体制のすり合わせや求人を行なって、2023年1月から24時間365日の監視を開始しました。
入社当時、まずは自分でモデレーター業務を行なってみましたが、メンバーが日々扱う仕事量の多さに驚いた記憶があります。

私もOさんより少し早い時期に入社したくらいでしたが、当時、所属するタレントさんが増えるにつれ、配信数も急増していたんですね。モデレーター体制が構築され始めた2020年の配信数が11000件だったのに対して、2022年には18000件を超えるという増加ペースからも伺えます。まずは、深夜帯も含めたすべての時間帯を監視できるように人材の募集を行なう必要がありました。

配信数の増加推移

2022年11月、Twitter(現X)で大規模採用のお知らせをしたところ非常に多くのご応募をいただいたのを覚えております。ホロライブプロダクションに興味を持っている、情熱を持っているたくさんの方々が応募してくださり、本当にありがたかったですね。その全ての応募に目を通し、いただいた履歴書を検討して、チームのミッションを深く理解いただけそうな方にお声がけしたのが、現在のモデレーターチームです。2023年に50名以上の体制となり、現在は80名近くの方に勤務いただいております。

――今のモデレーションチームの強みや特徴について教えてください。

全員自社雇用で業務を行っていますので、フレキシブルな対応ができるのが特徴です。外部に委託する場合、問題が発生しても先方に連絡をしてその方が現場の方々に下ろす必要がありますが、自社雇用だと伝えたことをすぐに反映できますし、問題が起きた際も即座に対応を行なえます。また、24時間365日体制で、タレントさんが稼働していない時間も監視を行なっています。そうした時間にはYouTubeのチャット欄ではなくコメント欄などを監視し、配信がはじまったらモデレーションを開始するような形です。

自社で雇用することでモデレーションチームの個々人と細かくやりとりができるので、「これは介入しすぎ」という部分など、フィードバックが細かく迅速に通って、すぐに改善に繋がります。この辺りはカバーのモデレーションチームの特徴だと思います。

――タレントさんごとの要望を取り入れたモデレーションなども可能ですか?

そうですね。土台としてモデレーションチームの考えは守りつつも、タレントさんからも要望はいただきますので、全体のマニュアルに取り入れられるように検討することもあります。

何か気づけばこちらからタレントさんサイドにお伝えすることもありますし、タレントさん側からタレントマネージャー経由でご連絡いただき、私たちの現場に下ろすことも可能です。モデレーターチームの業務連絡ツールは会社のシステムとは切り離した場所にあるため、こうしたやりとりに関しても情報漏洩を起こしにくい構造になっています。また、以前は外部に委託していたホロライブENとIDの配信監視についても、現在は自社で雇用しているENとIDの専門チームがいて、ともに24時間体制で監視にあたってもらっています。

健全なコミュニケーションを妨げないために

――多言語/多文化でのモデレーション業務はどのように実現したのでしょう。

これは非常にありがたい話なのですが、ENチーム、IDチームともに最初に入ってくださった方々が本当に優秀で、私たちのモデレーションへの考え方やマニュアルをチーム内にしっかり伝えてくださり、とてもいいチームができあがりました。
日本語以外のコメントについてはチェック時に文化的背景の理解も必要になってきます。一見して問題ないコメントでも知識を負っているモデレーターさんがきめ細やかに対応してくれ、理由を我々にフィードバックしてくださいます。その言語ならではのスラングなどを教わることもありますね。自社雇用でなければここまで細かくは対処できなかったかもしれません。

――ソフトウェアについて、自社開発のものを使用していると聞きました。

はい。要監視配信枠の一括管理が行えたり、大量の荒らしがきた際に即時に対応できたりと、弊社のモデレーションに特化した機能を備えたツールを開発しています。
タレントさんのチャンネル内に入ることなくツール上で様々な操作を一括で選択したり、タレントさんごとに細かく修正や設定を行なったりでき、事故や情報漏洩が起こりにくいのが特徴です。タレントさんがいつどのような配信を行ない、その配信が弊社の配信のルールに則っているのかどうかをツールで取得し、そのうえでオペレーターが手動で確認することも行なっています。
ツールによる効率化により人間のリソースを「高度な判断」が必要な箇所に集中投下でき、人間のきめ細やかさと機械の精確さを兼ね備えたモデレーションを実現しています。

――モデレーション業務において特に大切にしているのはどんなことでしょう?

タレントのみなさんが全力を出して、最善のパフォーマンスで視聴者さんを楽しませてくれるための環境づくりが一番の仕事だと思っています。様々な場所からフィードバックをして、見極めたうえでコメントなどに悪いものがあれば削除しています。とはいえ、モデレーション時は判断を慎重にするということも大切にしているんです。賛辞コメントだけを選択して残しそれ以外を排除する、というのは望ましい姿勢ではないと考えています。コメントをくださる個々人が持つ言葉の力はとても大切なものです。コメントの力とタレントさんの力がぶつかることでよりいっそう魅力的な配信が生まれると信じています。そのため、基本的にはタレントさんとリスナーさんの間でのやりとりを大切にしていただき、それでも何か対処しなければいけない場合には私たちが対応するという形を取っています。

――「対話ができる環境づくり」を大切にしているんですね。

そうですね。タレントさんに寄り添おうとしすぎた結果、コメントに対してネガティブな姿勢で望んでしまうことにも気をつけなければいけません。コメントの背景には、一人ひとり人間のリスナーさんがいらっしゃいます。モデレーターが持つ権限はそうしたひとりの人間を配信から追い出せてしまうとても強いものだという意識が大切です。タレントさんに寄り添いつつ、けれども言論統制にはならないよう、少しでも判断に迷うものには即座に対応しないことを徹底しています。
もちろん、これは決して放置するということではないんです。配信中、コメントは凄まじいスピードで流れていきますが、弊社ではツールで後から追いかけて対処することができます。少しでも迷うものについては一度こちらに判断を仰いでもらい、社員である私たちの責任のもとで最終判断をしています。迷うのは「判断が揺らいでいる」証拠ですから、そんなケースこそ慎重に見極めることが必要です。「タレントさんとリスナーさんがコミュニケーションをする場所」としての配信を守るためにも、モデレーターが出すぎないことは意識しています。

ホロライブプロダクションのモデレーターに課せられたことはシンプルです。「リスナーさんの言葉をリスペクトしよう」「できるだけ、残す理由を考えよう」とそれだけです。
炎上の芽を察し、それを報告すること。人を傷付けるかもしれない発言を察知し、それに対応すること。それらは簡単であるように思えるかもしれませんが、ここ最近の多様性を踏まえたときに、対処は困難を極めます。その言葉はある人には当たり前だとしても、ある人には心を抉る可能性を秘めているかもしれないからです。丁寧に緻密に冷静に言葉と対峙することがモデレーターには要求されています。
私たちが実現したいのはタレントさんと視聴者さんが1対1で話しているような空間です。そのためには、我々は極力出てこないのが理想です。いるのかいないのか分からない透明な存在ですが、何かがあった時は対応する。そんな影のような存在でいられたら、とても嬉しく思っています。

めまぐるしく変わるインターネット環境の中で

――繊細な判断が求められるお仕事ですね。そんなモデレーションチームの人材育成はどんなふうに行なわれているのでしょう?

モデレーション業務には多角的な判断が求められるので、まずは過去にあった事例を蓄積している分析ツールを使ってOJT(On the Job Training)を行ないます。過去にあったことはすべてこのマニュアルにまとめていて、検索すると様々な事例や対処法が分かります。もちろん、一気に覚えることは難しいですが、何かあった際はそこにアクセスすることを学んでもらう形です。その後、実践もこなしつつ経験を積んでいただきます。

自社雇用でモデレーターさん個々人に細かくフィードバックを行なうことができるので、新しく入った方も、ずっと続けてくださっている方と同じ水準になってもらえるよう心掛けています。インターネットの話題は目まぐるしく変わるので、気を付けた方がいいこと、知っておいた方がいいことを先回りして情報共有することもあります。毎回役立つわけではないんですが、知っているのと知らないのとでは対応のしやすさも違うので。

人によっては、モデレーションチーム以外の業務を紹介することもあります。モデレーターさんたちとは3か月に一度1on1で面談をするのですが、現状大学生の方が多く進路の話になることもあるため、能力や適性が合うようでしたら社内の別の部署に繋げたりすることがあるんです。過去にモデレーターとして働いていた方が社員として入社した例もあります。

――インターネットの世界は日々目まぐるしく変わっています。その変化についてはどう感じていますか?

インターネットはたしかに日々変化していますが、一方で人と人とのコミュニケーションは、いつの時代も変わらないと思っています。私たちモデレーションチームとしても、今までのものと新しいものを融合させてつねに視点を変えていくためにも、その辺りのキャッチアップはしっかり行なっていく必要があります。モデレーターの業務は分かりやすい形で何か決まったゴールがある種類のものではありません。ですが、時おりタレントさんから感謝の言葉が届くこともございます。その際には現場メンバーに必ず共有し、「やっててよかった」と思ってもらえるような環境作りを心がけています。 

みなさん、とても意欲的に取り組んでくれていますよね。

――最後に、ホロライブプロダクションを応援してくださっている方々に伝えたいことがあればお願いします。

いつもチャットやコメントをいただき、ありがとうございます。配信はファンのみなさんのおかげで成り立つものだと思います。みなさんが送ってくださっている応援のコメントは、直接タレントさんのもとに届いています。

中には、タレントさんを好きになりすぎて気になりすぎて全ての情報を手に入れたくなるなる……という方もいるかもしれませんが、何より楽しんで欲しいのは”今目の前”のタレントさんの活動なんだという点はお伝えしたいです。

今後も、今この瞬間の繋がりが感じられる環境を守っていけるように尽力したいと思います。

どれだけコメントのスピードが速くても、タレントさんは日々みなさんのチャットやコメントを見ています。これからもタレントさんたちを好きでいてくれるととても嬉しいですし、モデレーションチームとしては、みなさんが好きでいてくれるようにお手伝いをさせていただきたいと思っています。ホロライブプロダクションをこれからもよろしくお願いします! 

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